
鈴木千裕との試合から読み解く戦術の進化
はじめに
2025年5月4日、東京ドームで開催されたRIZINのビッグイベント「男祭り」において、朝倉未来選手が約2年ぶりの勝利を挙げました。対戦相手は、勢いに乗る若手ファイター・鈴木千裕選手。ファンの間では非常に注目されていたカードでした。
しかしこの試合に対し、フェザー級新王者のラジャブアリ・シェイドゥラエフ選手は「つまらない試合だった」とコメント。その発言はネット上でも大きな波紋を呼びました。本記事では、試合の戦術的側面からこの対戦を振り返り、「つまらない」という評価の背景と試合の真価について考察します。
試合前の状況と選手の立ち位置
朝倉未来選手は、近年3連敗という厳しい状況にあり、自身でも引退を示唆する発言をするなどキャリアの岐路に立っていました。そんな彼にとって今回の試合はまさに「背水の陣」。
対する鈴木千裕選手は、強力なパンチ力と積極的な攻撃スタイルを持ち味とするファイターで、KO勝利の多い華のある選手です。観客の多くは激しい打ち合いを期待していました。
試合序盤:予想を裏切る展開
試合開始直後、朝倉選手はまず立ち技で応戦。観客の期待通りの打撃戦になるかと思われましたが、わずか数十秒後、彼はテイクダウンを仕掛け、寝技の展開へと移行しました。
この判断は、鈴木選手の得意な「打ち合い」を避け、主導権を握るための冷静な戦略だったと考えられます。朝倉選手は相手の攻撃的なリズムを断ち、着実に自分のペースへと持ち込んでいきました。
グラウンドでの優位性とコントロール
寝技に持ち込んだ後の朝倉選手は、上からのパウンド(拳での打撃)や肘打ちを使って鈴木選手にじわじわとダメージを与えていきました。この戦術は「塩漬け」と揶揄されることもありますが、相手の動きを封じる効果的な方法です。
特に、強打を持つ相手に対しては無理に立ち技で勝負せず、グラウンドでのコントロールを重視するのが合理的な戦い方です。実際、朝倉選手はリスクを最小限に抑えつつ、ポイントとダメージを積み重ねていきました。
中盤〜終盤:冷静な対応と試合の決着
試合が進行するにつれて、鈴木選手はスタミナを消耗し、動きが鈍くなっていきました。それでも逆転を狙い、強打を繰り出しましたが、朝倉選手はその攻撃を冷静にさばき、的確なカウンターで応戦。
第3ラウンドには鈴木選手の顔からの出血が確認され、ドクターチェックの結果、TKOで朝倉選手の勝利が決定しました。劇的なKOこそありませんでしたが、全体を通して朝倉選手が主導権を握った内容だったといえます。
「つまらなかった」という評価の背景
では、なぜ一部から「つまらなかった」という声が上がったのでしょうか?
その背景には、観客が「派手な打撃戦」や「一発KO」といった、視覚的にわかりやすい展開を期待していたことが挙げられます。鈴木選手の過去の試合に見られたような爆発力を期待していたファンにとっては、朝倉選手の慎重な戦い方が退屈に映った可能性があります。
しかし、格闘技とは「見せるスポーツ」であると同時に「勝負の世界」でもあります。朝倉選手はエンタメ性よりも勝利を最優先に選び、その結果を確実に手にしました。
朝倉未来の戦術的成長と成熟
今回の試合で特に注目すべきは、朝倉選手の試合運びに見られた成熟です。打撃だけでなく、グラウンドでも攻防に幅を持たせ、かつ無理な攻めを控える姿勢には、これまでの彼にはなかった「計算された強さ」がありました。
グラウンドでの打撃も、ただ押さえ込むだけでなく、確実にダメージを与える目的で実行されており、戦術の一部として機能していました。これは、彼が単なるファイターから「戦術家」へと進化している証ともいえるでしょう。
結論:評価は一面的では測れない
朝倉未来選手の今回の試合は、「面白さ」よりも「勝利」に徹した戦いでした。確かに派手な展開はありませんでしたが、鈴木選手の強みを封じ、自分の強みを最大限に活かした点において、極めて完成度の高いパフォーマンスでした。
「つまらない」との声は、逆にいえば鈴木選手に何もさせなかった証でもあります。次戦でフェザー級王者シェイドゥラエフ選手と対戦することになれば、戦術の進化をさらに見せる機会になるでしょう。今後の動向にも大いに期待が集まります。
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